二次創作

「先日読んだ『ロミオとジュリエット』が頭から離れないのだ」

「家庭教師に来てもらって講読した、英語の戯曲だな。俺も読んだよ」
「実は昨日、士官学校の休憩時間にあの作品を話題にしたのだが…」
「食いついてきた奴はいたか?」
「…ある下級生に『他愛もない恋愛モノ』と鼻で笑われてしまった」
「ふん、そんな奴、ショコラでもぶっかけてやれよ」
「…(何故ショコラなんだろう)…ではお前もあの作品を気に入ったのか?」
「うん、…主人公達は俺たちと同年代だろう、いろいろと考えさせられたよ」
「そう!ジュリエットは僕…いや、私と同じ13歳だというのに、ロミオと一目で恋に落ち、極秘に結婚して、引き裂かれそうになると狂言自殺まで…。最後には愛する男の死を知って自らも命を絶つ…。
とても今の僕…いや、私にはそんな情熱的な恋はできないだろうな」
「…でもさ、俺たちだって、今はともかく、もう少し大人になったらそんな恋をする相手とめぐり合うかもしれないよ」
「ぼ…いや、私たちもめぐり合うのだろうか、命懸けの恋ができるような女性と…」
「…(女性?お、お前まさか、今だに自分を男と思ってるんじゃ…?)…」
「まあ私は女の子なんぞに興味はないからな」
「…(対象は男性なのか?大丈夫なのか?)…」
「…あ、ひょっとしてお前はもうめぐり合ってるかもしれないな、運命の女性と。自分で気付いてないだけで、実は身の回りにいるかもしれないぞ。あはは」
「…そ、そうかもしれない…ね…(気付いてないぞ、こいつはな〜んにも気付いてない!!)」

「あのラストが不憫でならないのだ。何故二人とも死ななければならなかったのだろう」
「運命のいたずらとしか言いようがないよ。俺もあれが腹立たしくてならないんだ」
「途中のプロセスをいじって、何とか二人が幸せに生き延びることができないかと、あれこれ考えているのだが…」
「ほんのちょっとしたタイミングのずれで、運命が大きく変わることだってありうるもんな」
「モンタギュー家とキャピュレット家が、我が国のブルボン王家とオーストリアのハプスブルグ家のように、婚姻による和平を選択する、という道だってありうるはずだ」
「俺は生き延びた後の二人の幸せな生活なんかも、想像してみてるんだ」
「そうか?私は『その後の生活』にはあまり興味がないが」
「…ふーん、……萌えポイントの相違ということだな」
「……そうだ!では『ロミオとジュリエット』を下敷きにして、各自で小説を創作してみないか?」
「小説…?実際に文章にしてみるのか、面白そうだな」
「そしてお互いに発表しよう。…ただし、お互いの萌えは尊重する、ということで」
「うん、…だけど俺、ジュリエットの相手はロミオ以外、許せないんだけど…」
「それは私も同じだ。異カプ不可だけは鉄則としよう」

「…不憫といえば、俺、脇キャラもいじったら面白いんじゃないかと思ってるんだ」
「脇?」
「ジュリエットの従兄のティボルト、ジュリエットの許婚のパリス、ロミオの友人のマキューシオ…。皆、悲劇的な結末を迎えているだろう?」
「血にはやり、武力にたけることで、あたら若い命を散らしてしまったのだ」
「お前も軍人の卵として、肝に銘じておけよ」
「武官はどんなときでも、感情で行動するものではないぞ。そんなことお前に言われなくてもわかってる」
「…で、原作には描かれていない、この不憫なキャラ達の人生を想像してみたらどうだろう?」
「それがお前の萌えポイントなのか?」
「…」
「よし、聞いてやる」
「まずティボルトだが、実は彼はジュリエットのことを密かに愛していたんだ」
「ほう、ティボルトはジュリエットと兄妹のように仲睦まじかったのだよな」
「ティボルトは、ジュリエットとパリスの縁談に衝撃を受け、パリスと衝突する」
「原作ではティボルトとパリスの二人は絡みはなかったはずだが」
「そう、そこに想像の余地があるんだよ。ジュリエットを巡る言い争いの末、ティボルトがパリスにショコラをぶっ掛けたり…」
「おい、ちょっと待て、舞台は16世紀のイタリアだぞ。当時ショコラはあったのか?」
「え?…え〜と、なかったかな」
「時代考証は重要だぞ」
「じゃ、設定を現代にしよう、舞台は18世紀フランスってことで」
「許さん!16世紀イタリアという設定に萌えるのではないか。安易に設定を変えるな」
「互いの萌えは尊重するんじゃなかったのか?」
「……続きを聞こう(それにしても何故ショコラなんだろう)」
「ティボルトがパリスに毒入りワインを飲ませようとするとか、パリスが徒党を組んでティボルトを拉致して脅しをかけるとか」
「…(随分と陰湿なエピソードだな)…」
「ティボルトとパリスについては、事件のネタはいろいろ思いつくんだけど、起承転結がまとまらなくて。ここまでしか考えてないんだよね」
「…(な〜んだ)では、他のキャラは?」
「ロミオの友人、マキューシオ。太守の縁者だ」
「教養に溢れた魅力的な人物だよな。男のクセに口数が多いのが難点だ」
「彼の陰影に満ちた人生を設定してみたんだ。聞いてくれる?」
「よし」
「実は彼は太守の隠し子だったんだ。太守の愛人を母に生まれたが、太守に新しい愛人ができ、マキューシオの母は棄てられ、川に身を投げる」
「ほう、それは波乱万丈な…」
「母は死んだが、マキューシオは別の元愛人に育てられ、異母弟とともに下町で明るく逞しく育つ。しかし出生の秘密を知ったマキューシオは、貧しい暮らしから抜け出すべく、家族を捨て、お人好しの貴婦人に取り入って社交界に出入りするようになるんだ」
「ふーん、…」
「事件が起こって、マキューシオが太守の子だということが太守に知れ、マキューシオは太守の屋敷に引き取られ、貴公子として教育を受け、贅沢な生活を始める」
「どんな事件が起こるのだ?」
「…えっと、…それはそのうち考えるさ。貴族の暮らしを始めたマキューシオだが、下町に残してきた異母弟が気がかりになってくるんだな」
「異母弟も、太守の隠し子なのではないのか?」
「あっ、そうか…そうだけど、…弟は依然下町で貧しい暮らしを続けてるんだ。マキューシオは太守から贈られた剣を売り払って、弟のために靴を買ってやったり…。招かれた夜会でこっそり食べ物を持ち帰って、分け与えてやったり…。このエピソード、気に入ってるんだけど、どう?」
「…(ありえないと思う、それ)…」
「次第にマキューシオは正義感に目覚め、貧しい人の生活を救済しようと盗賊を始めるんだ」
「…そ、それは、…唐突過ぎないか?」
「辻褄合わせは後でするよ。マキューシオは貴族の館ばかり狙っては侵入し、武器や金目の物を盗んでは貧しい人に施しをするようになる」
「…(どこをどう押せば、そんな馬鹿げた考えが?)…」
「でもさ、いろいろエピソードは考え付くんだけど、小説としてまとめるのは難しいよな」
「…ロミオとジュリエットは出番なしか?」
「…う〜ん、そうだな、…実はマキューシオは自分の母親が太守のせいで死んだと思い込み、太守を母の敵と密かに狙っていたのだが…」
「ちょ、ちょっと待て、さっきと微妙に話が違わないか?」
「そうか、じゃあこれは別の話ってことにしよう。マキューシオの人生は、ロミオと友達になったことで変わるんだ。ロミオの暖かい人柄と正しい心根に触れ、母の敵をとろうなどという馬鹿げた考えを思いとどまるのだ」
「…それで、貧しい人に施しをしようという考えに至ったのか?」
「そうそう!いいね、その展開。何だったらお前が書いたらどうだ?ネタ譲るよ」
「…い、いや、私は…」
「あっ、そうそう、これも聞いてくれ。ロレンス神父とジュリエットの乳母。この二人は実は幼馴染で密かに想い合っていたんだが……」
「…(誰かこいつを止めてくれ〜!)…」


……アンドレの妄想はまだまだ続きますが、なにぶん10代前半のオクテな二人、妄想がR18方面へ進むことは決してありませんでした。


おしまい




2008/10/22 初出 「きめそうこ」
2009/10/26 再掲

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