定期点検

「どうした?ご機嫌斜めだな。また、ブイエ将軍と悶着でも起こしたのか?」
「延々と説教を喰らった。全くあのジジイ、重箱の隅をほじくるようなことをいつまでもネチネチと・・・、だがな、今日一つ、新たな発見をしたのだ」
「何か?」
「ブイエのジジイ、耳の穴の手前に、毛が生えているのだぞ」
「ああ、耳毛ね」
「耳毛・・・、普通の者にはそんなもの、ないではないか。明らかにヘンだ」
「うん、俺もよく知らないんだけど、男が年を取ると、耳の穴の手前に毛が生えてくることがあるみたいなんだ」
「男が?年を取ると?」
「中学の頃、技術科のガマン先生の耳に毛が生えててさ、男子の間で物議をかもしたことがあったよ。年取ると、俺たちもあんなになるのか、って」
「(お前も、か・・・!?)だが父上には、耳毛など生えていないのではないか?」
「確かに、旦那様にはないな。個人差もあるだろうし。・・・それとも奥様がマメに手入れされているんじゃないのかな(・・・きっとソファで、ひざ枕とかで・・・)」
「・・・(そうか、夫の身だしなみを整えるのは妻の務め・・・、よし、お前があんな耳毛ジジイにならぬよう、今から私が心がけねば)・・・、起立!」
「・・・!」

思わず妻の前に直立する夫。
2年間の軍隊生活で叩きこまれ、号令には身体が即反応してしまうのである。

「右向け〜、右!」

妻の正面から右を向くと、夫の左耳が妻の目の前に来る。

「いてっ」
左耳を引っ張り、点検する妻。

「よし、左耳異常なし。・・・回れ〜、右!」

今度は右耳が妻の正面。

「いてっ」
右耳を引っ張り、点検する妻。

「よし、右耳も異常なし。・・・回れ〜、右!」

再び妻の正面を向く夫。

「今後も随時耳の点検を行う。万が一、発毛の兆候が認められた場合には、即刻除毛を命ず!」
「了解!」
「・・・(良かった・・・、気付くのが遅すぎなくて・・・)・・・」
「・・・(ソファでひざ枕・・・、俺には過ぎた望みなのか・・・!?)・・・」



おしまい



2015/12/25 初出

バスの中で妄想中、耳毛ぼーぼーのおじさんを見かけ、・・・ブイエ将軍って耳毛生えてそう、と思ったら妄想が止まらなくなりました。あと、画家の先生も耳毛生えてそうな気がします。

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