この作品は、「ジャルジェ家パソコン導入顛末記」から派生したエピソードです。
ただし本編とは全く関係ありませんし、続きのお話でもありません。


コピー機

「あ〜あ、近衛隊はよかったよな〜」
「…衛兵隊の何が不満だ?」
「コピー機だ」
「…」
「近衛隊のコピー機は優秀だったよな。お前が入隊した15年以上前でさえ、今の衛兵隊のよりはるかにいいのがあったぞ。
今時、紙送りもソートもできないなんて、よそじゃ考えられない。ウチくらいのもんだ」
「文句はブイエ将軍に言え。昨年度末の予算会議で、リースの稟議に承認のサインをするのを拒否されたのだからな」
「…俺の作成した資料は完璧だったはずだ」
「…(こいつ、何故今頃話を蒸し返すのだ?)…」
「原稿を1枚1枚パッタンパッタン入れ替えて必要部数コピーして次にコピーした原稿を順番に並べて1枚1枚取ってトントンそろえてパッチンパッチンホチキス留めするのにどれほどの手間と時間がかかってどれほどの人件費を要するかというデータと、新しいコピー機を導入した際のリース費用と維持費を算出したデータと、比較対照して表とグラフにまとめて資料として提出したんだぞ」
「…(予算会議は3ヶ月も前だったというのに)…」
「あ〜あ、近衛隊はいいよな、今年は新しくカラーコピー機を購入したんだってさ」
「…(それでか)…」
「何も最新機種を入れてくれって言ってんじゃないぞ、カラーコピーなんていらない。ホチキス留めも穴あけパンチの機能も不要だ。…でもせめて紙送りとソートくらい…」
「…私だって最大限に努力したのだぞ。 しかしあのブイエのジジイの石頭め、これはもう嫌がらせとしか考えられん」

「……だいたいお前がブイエ将軍のことを、親の仇でも見るように睨み付けるから」
「だって実際親の仇のようなものだ。我がジャルジェ家とブイエ家は18世紀の昔から代々…」
「話をそらすな」
「…(ばれたか)」
「俺が言いたいのはせめてもう少しニコヤカにできないのかということだ」
「お前私に、ブイエのジジイに色仕掛けを使えとでも言うのか?」
「そんなことは言ってない、ひとっことも言ってない。俺だって適材適所という言葉は知っている」
「では、私にあのジジイに対する笑顔など要求するな」
「…いいか、これは戦略だ」
「…(戦略?)」
「笑顔はコミュニケーションの第一歩だ、笑顔で先制攻撃し、敵と自陣の間にある障壁を強行突破する」
「…(先制攻撃、強行突破…)ふむ…」
「外堀を埋めるといってもいい。難攻不落の城塞も、敵の懐に入り込み接近戦に持ち込めば後は時間の問題だ」
「…(難攻不落、接近戦…)なるほど…」
「(やる気になってくれたか?)…百歩譲って今年は我慢する。だから是非来年は…」

「……そうだ、近衛隊は新しいコピー機を購入したといったな?」
「ああ、それが?」
「では古いコピー機が余っているのではないか?それを貰ってきたらどうだろう?」
「近衛隊から、古いのを…?」
「それでも十分今のウチの物より高品質なのだろう?…そうだ、私からジェローデルに頼んでみよう。
コミュニケーションの第一歩は笑顔だったな、ジェローデルに会ったらまずにっこりと…」
「…!」
「そして懐に入り込み、接近戦…」
「ジェローデルに会うのか!?」
「…!?」
「……」
「…は、離せ」
「いやだ」
「離せっ、アンドレ」
「いやだっ!」
「あ…」
「頼む、オスカル、お前のためならどんなことでもしてやろう。…ホチキス留めでも穴あけでも…」
「は、離せ、人を呼ぶぞ、離せ」
「だから、だから…オスカル…!」
「し、司令官室を、何と…こころえ……」

こうして難攻不落の女隊長は、部下の強行突破およびそれに続く接近戦によって陥落したのでありました。


めでたしめでたし



2007/09/21 初出 「きめそうこ」
2009/11/6 再掲

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