この作品は、投稿サイト 「Thousands of Roses」様(現在休止中)における、2006年の春の企画のお題『クラヴァット』に投稿した『日常の風景 〜クラバット編〜』を改題、一部改筆したものです。


クールビズ

「お前、その服はなんだ?最近よく着ているが…」
「へ?何って?」
「…クラバットもせずに…」
「ああ、仕立て屋に勧められたんだ。今年の夏は絶対これが来る!って」
「来る?」
「クールビズというものだ。(…駄洒落じゃないぞ………気付いてないな…)涼しくて仕事の能率も上がるし、資源の節約にもなるという。
ほら、国王陛下が提唱された…」
「ああ、それがそうなのか?われわれ武官には関係ないと思って興味がなかったのだが。
…しかし国王陛下もそんなものをお召しになるというのか?(あまり想像したくないな)」
「いや、謁見や公の場では従来どおりの服装をなさるだろう。お一人とか、少人数での執務の時などには着用されるのではないか?」
「ま、まさかお前、この夏は司令官室でその服装を…?」
「馬鹿、お前さっき自分で武官には関係ないと言ったろう?」
「そ、そうか。そうだよな。(なにがっかりしてるんだ私)
…それにしてもその服、前が開きすぎていないか?(ウチには若い未婚の侍女も大勢いるというのに…)」
「仕立て屋には、お似合いですよって言われたんだけど…」
「お前あんなにクラバットが好きだったのに」
「好き!?アレは好きとか嫌いとか言うものじゃないだろう?」
「ちょっと前までは、四六時中締めてたじゃないか」
「そりゃ、仕事の時には締めなければならないものだからさ。宮廷では勿論必須だし。屋敷でも常にスタンバッてるからな、俺。
ま、馬の世話とか、力仕事のときははずすこともあるけど」
「…そういえば、昔若気の至りで…酒場で喧嘩した事があったろう?」
「(若気?30間近じゃなかったか?)…ああ、…あったな」
「あの時もお前のクラバットの結び目は微動だにしていなかった」
「よく覚えてるな、そんな事」
「翌日ばあやに怪我を手当てしてもらって、包帯でぐるぐる巻きになっていた時も、お前はきっちりとクラバットを締めていたぞ」
「そうだっけ?…あんまり覚えてないけど」
「……(私の記憶の中のお前は、常にクラバットと共にあるのだ…)……」
「……(クラバットが好きなのはお前のほうじゃないか?)……」
「…で、お前が今クールビズを着用しているということは勤務中なのか?」
「ああ。俺の最重要任務」
「?」
「お嬢様の遊び相手さ…」
「…あ…」

(中略)

「…ところでクラバットとは何のためにあるのだろう?」
「(まだこだわってんのか?)ただの飾りだろう。実用性はないな。冬はあったほうが暖かいけど、夏は暑苦しいし。でも締めないわけにはいかない」
「しきたりか。従わないと反社会的とみなされる」
「そうゆうこと」
「女性のコルセットやドレスも同じだな。何もあんなに締め付けなくともよいのに、社会的慣習として幼い頃から強制される。あの苦しさは付けた事のない者にはわからないだろう」
「…お前は誰も強制してないのに好き好んで付けたんじゃ…?」
「…………………」
「…(やばっ)…あ、わ、わかったぞ。クラバットの役割」
「何だ?」
「体の前後が判別できる。クラバットのある方が前だ」
「そうか!それは便利だ。…しかし男性はそれでよいが、女性はどうするのだ」
「女性は…胸があるからいいんじゃないか?胸のある方が体の正面」
「なるほど」
「あっ、でも、お前はいいんだ。えっと、顔の付いてる方が正面だ」
「……何が言いたい?」
「えっ…?だから…顔があれば…胸なんてなくっ……」
「……………………」
「………(汗)………」


殴ッ彡☆


おしまい






2006/04/27 初出 「Thousand of Roses」様
2008/08/12 改訂 「きめそうこ」
2009/11/6 再掲

アンドレが錯乱して意味不明の理屈をこねてますが、管理人が若かった頃、彼氏(現亭主)に「身体の前後がわからない女」と罵られた経験が元になっております。
「顔があるほうが前に決まってるでしょ」と反論しますと「顔がないと身体の前後がわからない女」と言いなおされました。
それにしても、顔なしで体の前後を判別しなきゃいけないって、いったいどーゆうシチュエーション?
自分で書いておきながら、いくら考えても思い付きません。
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